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第5回平和構築フォーラム・セミナー(ユニセフと共催)議事録

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第5回平和構築フォーラム・セミナー(ユニセフと共催)
「人道・開発ギャップを埋める平和構築戦略」
2006年10月17日(火)
於:UNハウス(コミッティールーム2・3)

【パネリスト】
発表者:ダニエル・トゥール(ユニセフNY本部緊急救援事業部長)
コメンテーター:中満泉(一橋大学国際・公共政策大学院教授)

【議論のポイント】
●1990年代に比べ、全体的な紛争の数は減少傾向にあるが、国内避難民数や自然災害は増加傾向にある。今後、国際的な取り組みとしての「人間の安全保障」がさらに重要になるだろう。
●紛争犠牲者の80%が子供と女性であり、彼らはしばしば暴力や性的搾取の対象となる。いかなる子供も平和な環境で暮らす権利を有し、さらに彼らは将来の担い手として重要な問題解決の鍵となる。紛争下の子供を守ることは、国の将来にとって決定的に重要な要素である。
●平和構築における原則として特に大切なものは、他のアクターとの連携(パートナーシップ)、現地のオーナーシップ及び現地の能力強化支援、格差の是正、現地の声を反映する下から上へのアプローチ、子供と若者の参加、十分で予測可能な柔軟性のある財政支援、即効性のある介入と長期的な関与等である。
●教育は子供達に身体的な保護を提供するほか、彼らの苦痛(トラウマ)を克服させる効果がある。また、教育は子供達の潜在能力を引き出し、将来の国家再建及び平和構築に目に見える変化をもたらす。さらに、学校をコミュニティーの中心として機能させることは、平和的共存の第一歩につながる点で有益である。
●日本は平和構築分野において、人間の安全保障のアプローチを推進する主導的役割を担ってきた。今後ともこれを継続してほしい。また、平和構築に対する長期的なコミットメント、危機に対する緊急対応及び早期段階から復興に向けての総合的な取組、紛争経験国の能力強化、そして平和構築支援に携わる日本の関係者の能力強化・人材育成が推進されることを期待している。
●国際社会の平和構築のアプローチに重要な4つの柱は、@治安の確立、A人間の安全保障、B国家再建、C平和に資する経済運営であり、日本はこの各々において大きな貢献ができる。
●より効果的な支援のためには、「目に見える援助」のみならず、現地のオーナーシップを重視・支援する観点から、状況に応じて「目に見えない援助」も重要な場合がある。また、日本は現在の「安全性に関する基準」を再検討し、安全確保研修等を活用した人材の能力強化及び現場での訓練を推進することが大事ではないか。


1.「人道・開発ギャップを埋める平和構築戦略」(ダニエル・トゥール・ユニセフNY本部緊急救援事業部長)

(1)紛争の数は、1990年代初頭に比べて約40%減少している。これは、平和維持・平和構築・紛争予防に対する国連の一連の取り組みの成果とも説明できよう。他方、現在の紛争の大部分は、アフリカのサハラ以南、そして中東で起こっている。増加する国内避難民数や自然災害の被害を見ると、国際的な取り組みとしての「人間の安全保障」が今後さらに重要になるだろう。

(2)紛争犠牲者の大部分(約80%)が子供と女性である。彼らは家や家族を失い、貧困や病気など大変厳しい環境に置かれている。さらに、子供達は武装勢力によるリクルート、誘拐、暴力、性的搾取の対象となる等、紛争がもたらす影響は計り知れない。

(3)15歳以下の子供の全人口に占める割合で分類すると、紛争経験国では、子供の人口が40%以上の国が大多数を占める。子供達は、将来の国の担い手であり、問題解決の鍵である。紛争下の子供を守ることは、国の将来にとって決定的に重要な要素である。

(4)平和構築のなかで子供の問題への取組が重要な理由として、まず、いかなる子供も平和のもとに暮らす権利があること、次いで、子供達や若者が今後の問題解決に向けての鍵となること、さらに、ミレニアム開発目標(MDGs)の促進に不可欠であること等が挙げられる。

(5)平和構築における原則として特に大切なものは、他のアクターとの連携(パートナーシップ)、現地のオーナーシップ及び現地の能力強化支援、格差の是正、現地の声を反映する下から上へのアプローチ、子供と若者の参加、十分で予測可能な柔軟性のある財政支援、即効性のある介入と長期的な関与等である。

(6)持続的な平和構築のために、より包括的、戦略的、そして重点的に取り組まねばならない分野は、政治的安定、DDR、治安部門改革(SSR)、グッドガバナンス、法の支配及び司法制度改革、人権履行状況のモニタリング、そして、経済及び社会の再建である。特に、教育をはじめ、ヘルスケア、雇用、再統合は目に見える成果をもたらし、コミュニティーの信頼醸成に大いに結びつくと言えよう。

(7)教育は子供達の保護及び彼らの苦痛(トラウマ)を克服させる効果がある。さらに、教育は子供達の潜在能力を引き出し、将来の国家再建及び平和構築に変化をもたらす。例えば、2001年から2002年のアフガニスタンにおけるプログラムでは、日本政府の支援を受けた教育省の主導により、男女両方を対象とした学校が開設された。

(8)前述の通り、教育はコミュニティー再建へ重要な役割を果たす。スーダンの例に顕著に見られるように、紛争後、学校をコミュニティーの中心として機能させることにより、より平和的な共存に向けた変化が期待できる。

(9)コミュニティーの信頼醸成には、コミュニティーの伝統的指導者達の助けを借りるのが有益である。ユニセフは他のアクターと連携し、2004年、シエラレオネにおける子供の権利に関する"Chiefs as Champions for Children Initiative"プログラムを立ち上げた。コミュニティーの指導者達を参加させたことで、子供の権利やニーズを把握し、またコミュニティー強化に役立てた。

(10)子供に対するDDRの実施は包括的な社会の安定につながる。元児童兵の教育や職業訓練、元戦闘員の雇用は、個々人の社会復帰のみならず社会全体の政治的・経済的安定にとって重要である。また、DDRの実施においては、社会復帰プログラム(Reintegration)及び対象者に女性も含めることの重要性を強調したい。

(11)現時点までに得られた教訓は、(a)紛争経験国の約半数がその後5年以内に紛争に逆戻りする状況に鑑みれば、紛争後の平和は脆弱と言わざるを得ないこと、(b)平和創造だけでなく平和構築に向けての長期的なコミットメントが重要であること、(c)早期の目に見える進展と現地のオーナーシップが大切であること、(d)若者の巻き込みが必要なこと、(e)紛争予防と関連させた平和構築への取り組みが今後さらに必要となることである。

(12)日本は平和構築分野において、人間の安全保障のアプローチを推進する主導的役割を担ってきた。今後ともこれを継続してほしい。また、平和構築に対する長期的なコミットメント、危機に対する緊急対応及び早期段階から復興に向けての総合的な取組、紛争経験国の能力強化、そして平和構築支援に携わる日本の関係者の能力強化・人材育成が推進されることを期待している。


2.日本の視点(中満泉・一橋大学国際・公共政策大学院教授)

(1)国際社会の一員として、平和構築に取り組む際に重要となる4つの柱として、@治安の確立、A人間の安全保障、B国家再建、C平和に資する経済運営がある。以下、手短に説明したい。

@治安の確立
国際治安維持部隊の展開が紛争直後の治安の安定化に重要であることは言うまでもないが、治安改革支援に関し、文民の果たす役割が拡大している点を強調したい。国軍再編、警察改革、能力向上を含めた広範な治安部門改革において、文民の重要性が高まっていること、これに伴い、日本の果たすべき役割も拡大していることを指摘したい。

A人間の安全保障
包括的な概念である人間の安全保障は、国家の統治のみならずコミュニティーのレベルでの公共財の提供システムを考える際に重要な役割を担う。紛争の根本要因への対処、コミュニティーレベルでの支援、個々人の保護及びエンパワメント等に対応していく人間の安全保障は、各機関によるセクター別に偏りの見られた支援に関して統合的な視点から纏める効果も持ち合わせている点で有益である。

B国家再建
国家再建には行政能力の確立及び政治的プロセスへの支援がある。前者に関し、日本は途上国支援におけるこれまでの蓄積から多くのノウハウを持っており、貢献の出来る分野である。さらに、後者の政治プロセスに関しては、長期的な支援が重要である。また、民主化プロセスを推進させる上でも、現場の状況に即したものを生み出す創造的な視点を持つ必要があろう。

C平和に資する経済運営
経済復興分野に関しては、これまで国連は主導的な役割を果たしてはこなかったものの、今後、平和構築委員会が同分野に関して国連機関とブレトンウッズ体制の融合に大きな役割を担うべきである。また、紛争後の経済課題のひとつとしての雇用の創出及び若者の就業について、日本が貢献できる部分は少なくない。

(2)より効果的な支援のために、次の2点を指摘したい。

@「目に見える援助」を超えたアプローチ
伝統的な支援のアプローチとして、これまで「目に見える援助」が盛んに唱えられてきたように思われる。しかしながら、現地のオーナーシップ及び主導的役割に鑑みれば、そのスローガンは必ずしも適切とはいえないのではないか。現地のオーナーシップを重視し、それを支援する観点からは、状況に応じて「目に見えない援助」も重要な場合があることも付け加えておきたい。

A援助活動におけるリスク・マネジメント能力の強化
現在の「安全性に関する基準」は再検討の必要があるのではないか。和平合意締結後の第一日目から現地に展開し、平和構築支援のためコミュニティーにアクセスすることが必要だからである。今後、安全確保研修等を活用した人材の能力強化及び現場での訓練が重要となる。


3.意見交換

(1)「子供」の年齢の範囲についてどのように定義されているか。
→(トゥール氏)国によって違うが、通常15歳未満とされることが多い。

(2)コミュニティーの指導者の取り込みに付随する弊害はないのか。
→(トゥール氏)状況により違いは見られるが、これまでの教訓を踏まえ、一般的にコミュニティーの指導者を重視したアプローチは状況の改善に大いに役立つ。

(3)国際社会として、危機段階から開発段階へのハンド・オーバーを行うタイミングは難しい。いつ行うべきなのか。
→(中満氏)平和構築の第一日目からの現地のオーナーシップの存在の重要性である。また、現地のオーナーシップという概念とハンド・オーバーという概念には違いがあり、ハンド・オーバーという概念には違和感を覚えざるを得ない。当事国に対しては決して多くを期待し過ぎることは出来ないが、国際社会の役割は、当事国を支援し、後押ししていくことである。

(4)支援国・機関の援助調整をどのように改善すべきか。
→(トゥール氏)支援国・機関の援助調整は重要な課題であり、国連及びユニセフとしても積極的に取り組んでいる。バイのドナーでは、国内の関係部局相互の調整も課題である。
(その他、席上より、国連関係機関の相互競争の弊害が指摘される一方で、東ティモールのように、現場において関係機関との援助調整が非常に良好なケースも紹介された。)

(5)ユニセフの平和構築支援をどのように自己評価しているか。
→(トゥール氏)評価に際しては、結果重視マネジメント、正しい選択、現地の生活の変化に対するインパクトに着目している。良い支援を行うためには、平和構築段階に移行した初期の段階から、相手国政府の積極的な関与を引き出すことが重要である。

(以上)

終わった後、懇親会が開かれました。