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第4回平和構築フォーラム・セミナー議事録

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第4回平和構築フォーラム・セミナー
「国際的な選挙監視活動の課題−コンゴ民主共和国での経験を踏まえて」
2006年8月21日(月)
於:UNハウス(エリザベス・ローズ・ホール)

【発表者】
森下敬一郎(内閣府国際平和協力本部事務局参事官/コンゴ民主共和国国際平和協力隊(日本政府派遣選挙監視団)隊長)
饗場和彦(徳島大学総合科学部助教授/コンゴ民主共和国国際平和協力隊隊員・選挙支援専門家)

【議論のポイント】
●今回のコンゴ(民)での大統領・国会議員選挙に、日本から国際平和協力法による選挙監視団8名を7月23日から8月3日まで派遣し、無事に完了した。国際選挙監視員の役割・意義は、中立的な立場の維持、民主的な選挙実施への貢献、投票所職員の士気向上、開票結果の受け入れへの貢献である。監視の手法に関する経験を蓄積したことは、重要な成果の一つであった。安全確保は大きな課題であったが、現地に経験・土地勘のある要員は大いに役立ち、今後とも必要と感じた。また、現地NGOとの連携も効果があったので、今後は事前の調整も行っていくことが有益と考える。
●国際社会が行う選挙支援活動(選挙監視を含む)の課題としては、(1)選挙支援の増加にどう応えるか、(2)経費の負担にどこまで応じるか、(3)中立的な支援をどこまでできるか、の3点が挙げられる。これに対し、日本が行う選挙支援活動(選挙監視を含む)の課題としては、(1)実質的な支援を行うか、象徴的な支援にとどめるべきか、(2)日本の比較優位をどう活かすか、(3)NGO・市民の視点をもっと入れるか、(4)政府派遣の選挙監視として制度をどう整理するか、(5)軍事部門との連携をどうとるか、の5点が挙げられる。

1.コンゴ(民)大統領選挙・国民議会選挙における選挙監視活動(森下敬一郎氏・内閣府国際平和協力本部事務局参事官/ コンゴ民主共和国国際平和協力隊(日本政府派遣選挙監視団)隊長)

(1)コンゴ民主共和国の概要
私は先日キンシャサに選挙監視に行って来たばかりだが、キンシャサの方が日本よりずっと涼しかった(一同笑)。今日は、コンゴ民主共和国国際平和協力隊の隊長を務めたとの資格で、選挙監視活動についてご説明したい。
まず、コンゴ民主共和国は、大西洋ギニア湾に面したコンゴ川の河口に僅か37キロの小さな海岸線を有するだけの内陸国である。1960年ベルギーより独立した。人口は5750万人(2005年)で、行政上は10州及び首都キンシャサのあるキンシャサ特別州で構成されている。面積は234.5万km2で、西ヨーロッパに相当し、日本の約6倍で、9カ国と国境を接している。国土の大部分は熱帯雨林で覆われたコンゴ盆地からなる。季節は乾期(6月から9月)と雨期(10月から5月)に分かれ、気温の変化は年間を通じて大差なく20度から30度である。豊富な天然資源に恵まれているにもかかわらず、長年の内乱、紛争の影響で国土は荒廃し、経済は一人当たりGNIが110ドル(2004年)と疲弊しきっている最貧国である。

(2)コンゴ民主共和国紛争 1998年8月、同国東部地域で反政府勢力が武装蜂起した。これに対し、ウガンダ、ルワンダなどが反政府勢力を支援し派兵、またジンバブエ、アンゴラ等がカビラ政権支援のためにコンゴ民主共和国領内へ派兵したことにより、国際紛争へ発展した。アフリカの歴史上最悪の紛争の一つとされ、約330万人以上の死者、約200万人以上の難民が発生したとされる。
包括和平合意(プレトリア和平合意)では、移行期間を経て民主的な統一政府を樹立することとされた。

(3)今次大統領・国民議会選挙実施の意義
今時大統領・国民議会選挙は、独立以来初の本格的な民主的選挙となる。今次選挙は、包括的和平合意に基づき国内和平・国民融和を達成するために、極めて重要なものである。選挙の自由、公正な実施は、コンゴ(民)における民主的な手段による統治組織の設立のみならず、同国において持続可能な平和と安定の土台となる民主化を進めていく上で大切だ。
国際社会は、同国の平和と安定がアフリカのみならず国際社会全体の平和と安定に多大な影響を与えるとの認識から、一丸となってコンゴ(民)の和平プロセスを支援してきた。例えば、国連は、同和平合意の履行監視等を任務とするMONUC(国連コンゴ民主共和国ミッション)を設置し、南アは、投票箱、投票用紙を支援した。
我が国は、対アフリカ支援、中でも平和の定着への支援を重要視しており、コンゴ(民)の平和と安定に向けて出来る限りの協力を実施することとした。国際平和協力法に基づき選挙監視団(コンゴ(民)国際平和協力隊)を派遣したほか(7月11日閣議決定)、2004年11月より、南アと協力して、コンゴ(民)の独立選挙委員会能力開発支援及び警察民主化セミナーを数回にわたり実施した。また、2005年3月、UNDPを通じて主に有権者登録を支援するため、約757万ドルの無償資金協力による選挙支援を実施した。

(4)政治プロセスと選挙の概要
次に、これまでの政治プロセスについて述べたい。1998年、コンゴ民主共和国の紛争が勃発し、これを受けて1999年に国連PKO(MONUC)が設立された。2002年12月には包括和平合意締結、2003年6月には統一暫定政権発足、2005年12月には憲法草案国民投票、2006年2月に憲法の公布、同3月に選挙法の公布と進展してきた。
今回の大統領選挙・国民議会選挙では、登録有権者数が約2500万人となった(推定有権者数は約2800万人)。選挙区は、全土(11州)の州の下に選挙区を設置し、全選挙区の数は169選挙区、キンシャサ特別州には4選挙区があった。大統領選挙は、候補者数33名で(うち1名が直前の25日に辞退)、有権者1名が候補者1名に投票し、全土で集計した。国民議会選挙は、議席数が500のところ候補者数が9,647名、キンシャサ特別州は議席数が58のところ立候補者数は3229名であった。

(5)治安状況
選挙監視活動を無事に遂行するためにも、治安には十分注意する必要があった。キンシャサ市内の治安状況は、外務省のウェブサイトにも掲載されているが、一般的な治安は悪く、紛争等による社会・経済情勢の悪化、国民の生活難の深刻化に伴い、ストリートチルドレン、失業者も多く、スリ、ひったくり等の窃盗事件が多発している。また、夜間に銃器を使用した軍人や警察官等による略奪事件が全国の都市部を中心に発生し、首都キンシャサでは外国人に対する強盗事件や私服警察官を偽った窃盗事案(未遂を含む)もしばしば発生している。
実際の滞在中にも、大統領選挙有力候補者の支持者達が、市内のスタジアムで集会を開き、その後興奮した支持者らと警察が衝突し死者が出る事件が発生した。安全面では細心の注意を払う必要があった。

(6)選挙運動の様子
以下、現地の様子をご紹介したい。市内には、候補者のポスターや横断幕が多数見られた。また、独立選挙委員会が横断幕やポスターを掲示していた。特に有力な候補であるジョセフ・カビラとジャン・ピエール・ベンバの2人のポスターが目立った。
事前の監視ルートを回る途中に、集会に遭遇し、その写真も撮ったが、車をたたかれて若干危険を感じる状況であった。

(7)投票・開票のプロセス
次に、投票・開票のプロセスを説明したい。投票所は、全土に49,746ヶ所設置された(昨年末の憲法国民投票の際は約31,000ヶ所)。このうち、キンシャサ特別州の投票所の数は8,518ヶ所(約5分の1)である。そして、投票所が4〜5ヶ所毎に、投票センターが設置されている(キンシャサ特別州では1,892ヶ所)。
それぞれの投票所では、独立選挙委員会により、要員として、投票所所長1名、補佐役2名、書記職1名、補佐役代理1名が配置される。投票期間中は、上記のうち3名以上が常に在室する必要がある。
投票終了後、投票所は開票所となり開票作業を行う。投票センターは、投票所ごとの開票結果をとりまとめ、集計センターに移送する。
投票所となった学校の様子を説明したい。学校の中に、いくつか投票センターが設けられ、更にその中に投票所が設けられた。他方、市内から離れると、屋外に設置された仮設投票所もあった。

(8)国際選挙監視員の役割・意義
選挙監視についてご関心がある向きにはご存知と思うが、国際選挙監視員の役割・意義を列挙したい。
第一に、中立的な立場の維持である。選挙の実施に介入せず、当該国の法令に従って活動する。不正がある場合も、現場では結果の記録に留める。
第二に、民主的な選挙実施への貢献である。選挙プロセスの信頼性、透明性を高める。監視員の存在は不正防止の効果がある。監視員の現場での質問で不正が防止される場合もある。そして、国際監視団の存在が選挙ムードを高め、国民の参加者意識の高揚に貢献できる。
第三に、投票所職員の士気向上である。監視員は、正確な作業への「応援団」としての役割もある。
最後に、開票結果の受け入れへの貢献である。事後の評価、報告を通じて、国民の選挙結果への信頼性の向上を促進し、特に選挙に負けた勢力に対して結果の受け入れを促す一助となる。

(9)日本選挙監視団の構成
日本の選挙監視団は、総員8名で、うち国家公務員5名(内閣府3名、外務省2名)、民間3名(選挙支援専門家1名、国際平和協力研究員2名)であった。
基本的に、投票日当日の監視活動は1チーム3名×2チーム(計6名)にて実施し、他の2名は本部要員として監視チームを支援した。
現地NGOとも連携した。投票日当日、現地NGOのRENOSECより2名の要員の派遣を得た。これは、監視活動のみならず、安全確保にとっても有益であった。

(10)任務の概要
選挙監視団の活動期間は7月23日(日)〜8月3日(水)(本隊は7月26日(水)〜8月1日(火))であった。調査・監視対象は、コンゴ(民)政府、独立選挙委員会(CEI)、政党、立候補者、投票者、投票所、軍・警察等、選挙プロセスに関わるすべての機関、関係者とした。

活動内容は、コンゴ(民)の関係法令、選挙監視員の行動規範等諸規定に則り、公正、合法的に選挙プロセスが進行しているかどうかを可能な範囲内で監視・検証・評定し、事後に報告するというものである。選挙開始前の投票所の準備状況から監視を始め、投票所職員の研修、選挙関連物資の準備状況、保管状況の確認も行った。活動場所は、キンシャサ市内の選挙区(キンシャサ1〜4)とした。
基本的に我が国監視団のみで活動した(他の監視団体の傘下には入らなかった)が、現地の様々な関係者との意見・情報交換を可能な範囲で実施し、選挙関連の最新の情報を得た。メディア関係者、独立選挙委員会(CEI)関係者、国連関係者、日本大使館関係者、他国外交団、地元NGO・国際NGO、他の主要な国際選挙監視団等である。国連(UNOPS)による国際選挙監視団向けの研修や、国際選挙監視団の連絡会議に出席した。また、EU主催の大統領候補者と国際監視団の対話会合にも参加したが、日本は私が招待されてアジア代表として取り扱われ、米州はカーターセンターが招待された。もちろんアフリカからも多数の選挙監視員が来た。

(11)選挙当日の状況
当日、投票所の開所前の状況を確認した。投票所の設置状況、職員の配置状況、開始時間、開所手続きの確認を行った。
また、投票状況については、職員の配置、有権者の確認、投票用紙の配布、秘密投票の遵守について確認を行った。実際の投票は、有権者を確認した後、有権者カードを渡す。そして大統領選挙の投票を行い、国民議会選挙の投票を行う。大統領選挙の投票用紙はやや小さいが、国民議会選挙の投票用紙はA1サイズ6枚で大変である。ブースの中では記入できない。最後に二重投票防止用のインクを指につけて終わる。この投票状況の監視を、午前6時から午後5時までやった。
閉所状況の監視も行った。具体的には、職員の配置、閉所時間の確認、閉所手続きの確認を行った。
いよいよ閉所されると開票作業に移るが、これも監視した。ここでは、適正な開票手続、有効票・無効票の確認、投票者・全投票数の確認等を行う。巨大な投票用紙を床に並べている。日が暮れたが電灯がないところもあり、配給されたハロゲンランプ2つを使って、職員は苦労しながら開票作業を行っていた。これを深夜まで続け、終わらなかったところは翌朝作業を継続した。泊まり込みである。家族を連れてきていて、食事をしていたところもあった。各投票所には、開票作業の結果を張り出していた。
この結果を集計センターに送り、コンピューターに打ち込んでいく。投票箱、投票用紙なども集計センターに持ってくることとなっており、集計センターの庭には、投票箱や投票用紙が置かれていた。集計センターは、きわめて厳格な警備をしていた。集計作業は遅れて、投票日の翌々日から作業を開始し、現在も集計作業中である。

(12)選挙に対するとりあえずの評価
詳細は監視団の所感を参照願いたいが、とりあえずの評価としては、多少の技術的な問題や、一部地域において数件の事件が発生を見たものの、選挙が概ね平穏な環境の中で自由かつ公正に行われたことを前向きに評価している。
不慣れな面もあったが、種々の困難を乗り越え、本格的な民主的選挙が概ね順調に実施されたことを歓迎する。
今後のプロセスが適正に実施され、結果を全ての関係者が受け入れること、右を踏まえ、国造りを進めていくことを期待している。

(13)今後の選挙日程
大統領選挙は、過半数の候補がいなければ、決戦投票になる。昨日(8月20日)発表された大統領選挙の暫定結果では、過半数の候補がいなかったが、31日予定の最終結果発表で同じ結果となると、10月29日に大統領選挙第二回投票(決選投票)が実施される。なお、11月9日には国民議会選挙の最終結果が発表される予定である。

(14)選挙監視団派遣についての評価と今後の課題
4年ぶりとなる国際平和協力法による選挙監視が無事に完了した。監視の手法に関する経験の蓄積は、重要な成果の一つであった。
安全確保は大きな課題であったが、現地での経験や土地勘のある要員は大いに役立ち、今後とも必要と感じた。また、現地NGOとの連携も効果があったので、今後は事前の調整も行っていくことが有益と考える。
今後の派遣についても、現地事情を考慮しながら、隊の規模、展開地域について判断していく必要がある。また、選挙管理への関与や国際的な選挙監視活動への参加について、引き続き国内関係者との議論を行っていきたい。


2.国際的な選挙監視活動の課題(饗場和彦氏・徳島大学総合科学部助教授、コンゴ民主共和国国際平和協力隊隊員・選挙支援専門家)

私は徳島大学で国際政治を担当している。今回、国際的な選挙監視活動の課題を、国際社会としての課題、日本としての課題の2つに分けて整理した。

(1)国際社会が行う選挙支援活動(選挙監視を含む)の課題

(イ)選挙支援の需要の増加にどう応えるか
まず、選挙支援の需要の増加にどう応えるかが課題である。イラク、アフガン、スーダンでも選挙が見込まれる。コンゴ(民)では、今回の経験を踏まえれば、5年後に独自に選挙を行うことには無理がある。シエラレオネ、コートジボワールも近々選挙が予定されており、東ティモールでも来年が選挙だ。このように、冷戦終結後、紛争後の選挙が増加しているが、これは和平プロセスの不可欠な条件であり、選挙の失敗は戦火の再発を招く。

(ロ)経費の負担にどこまで応じるか
しかし、実際に経費の負担に国際社会としてどこまで応じるのか。選挙のノウハウもないため、ソフト面の支援も必要だが、ハードや経費も含め、国際社会(先進国)がほとんど負担している。コンゴ民の今回の選挙では、支援総額4億2200万ドルの95%を国際社会が負担した。今後、決戦投票、地方選挙、5年後の次期選挙が予定されているが、その経費を国際社会が負担することについて、現地の外交団から疑問の声が出ている。選挙支援という形では、カンボジアが注目されたが、全て選挙を国連が取り仕切るという形の支援は、その後はない傾向である。最近は、国連は選挙支援を行うものの、国連がすべて見る形ではない。経費の面も含め、どのように関わるかが大きな問題である。

(ハ)中立的な支援をどこまでできるか
更に、中立的な支援を国際社会がどの程度できるのか。選挙支援は中立的が求められるが、支援する側には国益、政治的思惑から偏向が生じやすい。ある意味当たり前であるが、それが過ぎると本末転倒となり、本来の平和構築が阻害される。どの辺が落としどころか、バランスをとる必要がある。
例えば、コンゴ(民)は、歴史を見てもわかるように、資源が豊富ということがあり、資源の争奪ということで紛争が続いてきた。今回の選挙も、国際社会がコンゴ(民)の資源に目を付けたという観点もある。また、ベルギーのアフリカに対する姿勢として、何らかの植民地意識の継続も感じられた。今回、住民の意見を聞くと、極論ではあるが、「国際社会はカビラを当選させるために支援している」というような見方も根強い。その背景として、おそらく欧州にとってカビラの方が対応しやすいからではないかと推測されている。また、投票日の前の日に、EU監視団が大統領候補者と会合したが、これは端的に見ると、EUがコンゴ人の大統領候補を呼びつけ、選挙をきちんとやりなさいと言っているように受け取られてしまう。そのような意図がないとしても、である。このような形の支援では、本来の平和構築がどの程度できるのか、疑問に思われてしまう。

(2)日本が行う選挙支援活動(選挙監視を含む)の課題

次に、日本が行う選挙支援活動(選挙監視を含む)にどのような課題があるかまとめてみた。私自身、日本政府、NGO、国際機関など様々な形で選挙監視に参加しており、今回が13回目になる。

(イ)実質的な支援を行うか、象徴的な支援にとどめるか
第一に、実質的な支援を行うか、象徴的な支援にとどめるかが大きな問題となる。特に選挙監視については、実質的な意味を持たせようとするならば、規模及び期間の両面で拡充する必要がある。選挙は当該日のみではなく、選挙法、有権者登録、候補者受付、選挙キャンペーン、投票、開票、集計、異議申し立て、裁判所の判断、結果の判定など、全体のプロセスを見ないと、監視という評価が出来ない。日本として現地に滞在したのは約1週間である。そのような時間的な制約がある。
また、今回の投票箇所は5万箇所ある。日本として訪問したのは、8名2チームで、キンシャサ市内の59箇所だが、これは5万箇所の中の59箇所ということである。
これで、自由公正と十分に評価できるのかを考える必要がある。EUやOSCEは、長期オブザーバーも含め数十名から数百名規模である。実質的な監視を行うためには、期間を伸ばし、人員を拡大しなければならない。
ただし、それをしないとしても、象徴的な形で加わることに意味はある。この場合には、コストは少なくて済む一方で、日本の外交的な存在感をある程度確保できる。実際、日本は珍しいので、現地ではいろいろなメディアでカバーされる。これは、実質的な支援をやるのか、今回のように象徴的な形とするのかという判断の問題である。

(ロ)日本の比較優位をどう生かすか
日本の比較優位をどう活かすのかも課題である。これは平和構築全般についてもいえるが、これまで日本人と一緒に選挙支援の実務をやってきた。様々な国からの人とも一緒になってきた。日本人による選挙支援の実務能力の高さや効率性は感じた。実証は難しいが、その種の能力には比較優位がある。
同時に、中東やアフリカでは、選挙支援に限らないが、日本に対する良いイメージがある。欧州と違って、アフリカに対する植民地支配には手を汚していない。また、戦後の経済復興に対する経緯もある。欧州の人たちとは、現地の人たちの見方が違う。これをどのように活かしていくか、考える必要がある。

(ハ)NGO・市民の視点をもっと入れるか
更に、NGO・市民の視点をどのように入れていくのか。実質的な意義のある選挙監視をしようとすれば、まず参加する人員を増やす必要がある。そのためには、NGOや研究者、更には一般の市民を含めて、大きい規模の選挙監視をしようとの方向となる。例えば、インターバンドは、そのような形の選挙支援、民主化支援をやっている。このような人たちは多数いる。
規模を拡大する際には、PKO法では民間人の国家公務員採用など要件や手続きが煩雑であり、障害となる面もある。NGOへの選挙支援業務の委託を日本で制度的にできるのか、可能性を検討してはどうか。経費の節減にもなるだろう。
日本から選挙監視に参加すると、政府系・非政府系によらず、国外の受益者から見れば、すべて「JAPAN」の支援として受け止められる。その意味では、オールジャパンでやれば、相乗効果が期待できる。
また、現地におけるローカルNGOと協力すれば、情報や知見が活用できるのみならず、安全対策でも効果が期待できる。

(ニ)政府派遣の選挙監視として制度をどう整理するか
政府派遣の選挙監視として、制度をどう整理するか。外務省設置法、PKO法、JICAの技術支援の間に分担・調整がある。
現在審議中の一般法の中で、そして日本の国際平和協力の中で、選挙監視をどのように位置づけるかが課題である。もちろん自衛隊も大きな問題だが、選挙監視もこの一般法に含まれていることに留意する必要がある。

(ホ)軍事部門との連携をどう取るか
最後に、軍事部門との連携をどうとるかという問題を取り上げたい。紛争地における軍事的知見の必要性は、好むと好まざるとを問わず、直面するテーマである。今回のコンゴ(民)にもPKO部隊が展開している。また、国によっては多国籍軍との情報交換、リエゾンなども必要になる。このような知見を、どのようにして選挙支援の中に取り入れていくかが課題である。今回のコンゴ(民)の選挙監視団には自衛隊出身者は不在で、在コンゴ(民)大にも防衛駐在官武官は配置されていなかった。以前、カンボジアでは自衛隊出身者がおり有益だった。EUについては、EUの軍が現地に展開している。
結局、国連の枠組みの中での自衛隊の平和構築活動への参加をどうするかという問題につながる。これは、一般法や憲法の問題に関係してくる。軍事的な側面も、日本の平和構築の課題として考えられる。


3.意見交換

(1)私はアジアを中心に選挙監視活動をしているので、アフリカに関する知見がなく、今回の話を興味深く伺った。中立的な支援をどこまでできるかという点で、欧米が自らの価値観を押しつけているような事例が紹介されたが、アフリカ連合(AU)などの地域機構による選挙監視支援を活用すれば、欧米の価値観の押しつけを緩和できるのではないか。

→(森下氏)今回の選挙監視には、地域的機関も参加していた。実際、欧州代表団と大統領候補の対話集会には、AUの関係者を中央に据え、米国のカーターセンターも同席していた。アフリカを中心に据えることで、全体のバランスをとっていたとの印象だ。

→(饗場氏)国際NGOもいた。南アフリカのNGOが国際NGOとして、有権者教育などで活躍していた。同じアフリカということで、価値観からもアフリカ人同士の協力が望ましいと感じた。

(2)国際平和協力法による支援では、事前の有権者教育などは含まれないのか。

→(森下氏)事前の有権者教育など啓発活動について、独立選挙委員会に対する支援に国際社会で取り組んでいた。選挙はどういうものかというパンフレット、ポスターなどを用意した。主に国際社会の資金で対応していたように思うが、日本からの選挙支援も行われた。これまでコンゴ(民)に対して我が国が行った主な選挙支援としては、(イ)2004年10月より、MONUC及び南アフリカ共和国と協力しつつ、コンゴ民主共和国の警察民主化セミナー及び独立選挙委員会能力強化支援を数回にわたり実施したこと、(ロ)2005年3月、UNDPを通じて主に有権者登録を支援するため、約757万ドルの無償資金協力による選挙支援を実施したことが挙げられる。PKO法では監視と管理しか規定されていないので、それ以外の支援を隊としてやるのは法的に読めないように思う。

(3)JICAでコンゴ(民)を担当し、先日も現地入りして現地の状況を知った。選挙管理の面での支援など課題が挙げられていたが、JICAは選挙支援を2年前から行っており、有権者登録の能力強化研修、直前の集計の能力強化研修もやった。今回の政府による選挙監視団の派遣の一部を補完する形で貢献できたと思う。また、警察支援もやっている。選挙を実施する上では、治安の維持が大事である。その認識から始まって、PKOと組んで支援を行った。これは、JICAとして初めての試みである。開始時点では難しかったが、結局1年半かけて7千名の訓練ができた。選挙と治安はどうだったか。日本の関係者の一員として取り組んできたが、今後オールジャパンとしてどのような支援をやるのか教えてほしい。

→(森下氏)JICAの警察支援については、国連(MONUC)も極めて高く評価していた。

→(饗場氏)警察支援について、投票日の前の情報収集の時、警備の警察官から話を聞いた。大学も出ている警察官で、きちんとした人である。JICAの研修を受けたが、非常に良かったと言っていた。具体的には、警察は市民を守る立場にあるという点、警察としての本来の任務は何かという点がわかって有意義であったと言っていた。
今回、JICAが初めてやったということだが、実際の支援の担い手は南アフリカだった。その資金をJICAが出したという三角協力だった。文民警察官として、日本の優秀な警察官が直接コンゴ(民)に協力するところまで行けば望ましいと思う。
この関連で、選挙の前後の協力の重要性を指摘したい。現地では、悪さをする人たちもいるが、EU軍や国連PKO部隊がいたので争乱が起きていなかった。これは、自衛隊の協力という論点ともつながってくる。

(4)投票所の職員はどのようにリクルートされたか。

→(森下氏)投票所の職員は、投票所となった学校の先生など公務員である。

(5)今回の選挙監視支援はPKO法に基づくということだが、国連PKO局やMONUCが主導する形での支援団体の調整があったのか。地域分担や不正対処方法、選挙結果評価に関する情報交換などは、どの程度行われたのか。

→(森下氏)国連がどの程度選挙監視団の調整をやったかという点について、今回国連は選挙の実施を支援したので、監視については一歩下がっていた。分担地域を決めるというところまで調整するとの話も当初あったが、結局地域調整は行わず、選挙システムに関する研修、地方に行った監視員の移動のサービスなど、最低限のサービスにとどまった。

→(饗場氏)今回、国連はMONUCを展開していたので、選挙の実施はコンゴ(民)の当局が行い、これを国連が支援するという役割分担となった。他方で、選挙監視という面では、国連は関与していない。国連は人員の調整・配置を行わず、最低限の情報提供があっただけであった。本来、監視員の調整について、国連や他の国際機関ができれば良いのではないかと思うが、なかなか行われなかった。

(6)外務省設置法で行った場合とPKO法で行った場合、違いがあるのか。インドネシアでの選挙支援では、JICAの専門家が技術協力の枠内で入っていたが、PKO法で行った場合には、関与の期間、程度などはどうなるのか。

→(森下氏)PKO法と外務省設置法の関係について、「派遣」という結果から見れば、あるいは「派遣」という行為のみに着目して見るならば、どちらも同じようなものと映るかもしれない。しかし、両者は法的観点からすれば、手続きや性格・目的も大きく異なる。
PKO法は、国際的な選挙監視活動を日本の国際貢献活動として明確に定めている法律である。しかし、派遣に際し、監視の対象となる選挙が紛争起因であること、そして国連を中心とする国際機関から派遣要請があることが前提として必要となる。この前提に加えて、PKO参加5原則に合致する場合に、はじめてPKO法による選挙監視派遣が行われるのである。
他方、外務省設置法には、選挙監視業務が明示されていない。設置法による選挙監視業務は、あくまで外国との協力という形でなされている外交活動の一環として実施されているものである。
どのような専門家が隊に入るかという点について、今回は人数が限定されていたが、PKO法上も民間の専門家に参加してもらうことが可能な枠組みとなっている。

→(饗場氏)PKO法と設置法は、やることは基本的に同じである。双方ともいくつかやらせていただいた。しかし、法律上は、PKO法は、国連からの要請、参加5原則等の諸々の条件があるので、PKO法に適さない場合には、状況によっては外務省設置法で出すということも考えられるのだろう。

(7)昨年リベリア選挙管理支援をした。私は選挙を実施する側におり、選挙監視団が来ても忙しすぎて話を聞けなかったので、今回の評価を伺いたい。リベリアの場合であれば、カーター財団やEUなど国際監視団、そして国内NGOも来るが、選挙監視ではまちまちな行動をとる。例えば、カーター財団は、あれはいけない、これはいけないと口を出すが、EUなど手慣れた人は口を出さなかった。本当に選挙監視しているのか、と思われるような人もいた。他の選挙監視団と意見交換をしたというが、どのような意見交換をしたのか。また、選挙監視に国際的なスタンダードがあるのか。投票作業の監視もあったとのことだが、投票活動には人が来るものの、開票段階になると人がいなくなり、本当に監視しているのか疑問に思った。投票は大事だが、開票活動もきちんと監視してほしかった。選挙監視において、投票と開票のいずれかに重点を置いているのか。

→(森下氏)カーターセンターは、今回30〜40名派遣しており、今回の選挙の票かについても、慎重な見極めをした上で発表していた。直後の声明は、今後の推移を見守るというものであった。これに対し、ベルギーなど欧州は楽観的であり、投票も終わっていない時点で、平穏に行われたとの評価を出していた。むしろ開票状況こそ監視すべきという点については、夜中の真っ暗な開票所には、日本しかいなかったように思う。

→(饗場氏)選挙監視される側から見ると、憤慨することもあるという点を理解している。昨年のパレスチナ選挙でも、悪いところを直すのは何が悪い、という勢いで口を出す人もいたが、口を出すなという原則はある。ただし、国際的なスタンダードがあるかというと、まだない。これまでの経験では、物見遊山的な監視員も見受けられた。投票時には監視するが、開票時には疲れたので帰るということで良いのか、という選挙を実施する側の問題意識は理解できる。しかし、選挙を監視する側も、午前4時から起きて、一番遅いところでは、午前1時まで監視活動を行った。また、治安の関係もあり、夜は回らなかった。夜は危ないので監視を避けるというのは、やむを得ないという点もあろう。

(8)選挙監視員の人数について質問したい。東ティモールでは、人口の割合に何人の選挙監視員が派遣されたのか。東ティモールでは選挙監視員は多かった。それに対し、アフガニスタンでは少なかった。今回は人口に比べてどの位なのか。また、今回について、国際平和協力本部として、どのくらいが適正な監視員の数と考えているのか。20チーム、200チームでなく2チームとした点について、どのようにチームの数を決めているのか。

→(森下氏)何人送るのが適正かという点については、冒頭饗場先生から問題提起があったが、今回8名としたのは、地理的に遠く、治安は楽観できず、選挙日程がなかなか決まらなかったという事情から、小規模にならざるを得なかった。

→(饗場氏)適正な数について議論するのは難しい。東ティモールは多い。アフガンは少ない。イラク選挙はほとんどいない。これは、治安状況がストレートに関係している。治安が悪ければ、ほとんど無理である。今回のコンゴ(民)については、5万箇所に対して2チームは確かに少ないが、20チーム、200チームでも少なく、線引きは難しい。EUやOSCEなどと調整すれば、更に効率的に実質的な選挙監視ができるだろう。

(9)自由公正な選挙について、どのように考えるべきか。自由と公正は相互に関係するが、どう考えるべきか。

→(饗場氏)「自由」と「公正」をどうとらえるか、双方の概念は密接に関係するので難しい問題だが、有権者から見れば、「自由」という面が大きい。自由に意志が表明できるか、ということである。他方で、立候補者から見れば、「公正」が大事である。政府関係者に近い候補者はアンフェアな選挙キャンペーンを行っている、という見方が強い。有権者から見ると「自由」、立候補者から見ると「公正」が大事ということではないか。

(10)UNHCRのコンゴ(民)での活動について説明したい。キンシャサに国代表事務所があり、19箇所にフィールドオフィスがある。338人のスタッフがおり、国際職員が58名、国連ボランティア(UNV)は18名活動している。UNHCRの活動は平和構築の不可欠の一要素と感じている。
長い紛争の間に周辺9カ国に逃れた難民の帰還と再統合に力を入れている。また、国内避難民への支援、またアンゴラやスーダンなど周辺国から難民として入ってきた人への支援も柱となる。暫定政府や市民社会に対する能力強化を実施している。
日本政府からも支援を得ている。しかしまだ資金は足りない。外務省の平和構築支援無償スキームに向けて、コンゴ(民)に戻ってきた難民が再定住して平和に戻るためのプロジェクトを提案している。これは、平和構築のための信頼回復措置として、インフラが崩壊している中で公共施設を再建するものであり、ラジオ・オカピを通じて平和を作るという内容もある。また、能力強化については、キンシャサにサービスが集中しているので、地方で様々な研修やコミュニケーション手段、自転車などの交通手段を供与する。このような方策が平和構築につながると考える。

(以上)

終わった後、懇親会が開かれました。